Mission100コラム〜初めましての方へ〜

このページでは、素潜りとは?イソマグロとは?など、Mission100や小坂薫平にまつわる「そもそも」なことを解説いたします!
◆素潜りとは?

素潜りで息を止め続けると、誰もが息苦しくなる。この息苦しさの正体は、運動の代謝物として血中に放出された二酸化炭素が、体内に蓄積してきたサイン。フリーダイビングの世界では「呼吸衝動」と呼ぶ。この時点では、まだ体内の酸素残量には余裕があり、肉体的な限界に達していない。この苦しさに耐え抜くと、「コントラクション(呼吸筋の痙攣)」が始まる。これを乗り越えた先に、ようやく酸素欠乏による苦しみが現れる。そして、体内の酸素が一定量を下回ると、身体は防衛本能として意識を断ち、いわゆる「ブラック・アウト」となる。薫平のトレーニングの目的は、二酸化炭素の苦しみを突破し、低酸素に強い身体を作ること。よって、コントラクション後の時間がトレーニングであり、「これ以上は無理かもしれない」と感じてから、何段階もの苦しさの波を乗り越えていかねばならない。また、水圧が強い深度に潜るトレーニングでは、「肺胞や気管支が傷つき出血し、血痰を吐いたり軽度の肺水腫に陥る」という。こうした過酷なトレーニングを経て、初めてイソマグロに対峙できる。
◆イソマグロとは?

スズキ目サバ科イソマグロ属に分類される大型魚。背側は紺色、腹側は銀白色で、ほかのマグロ類に比べると細長い。鋭く尖った歯が特徴で、英語圏では “Dogtooth Tuna” と呼ばれる。一般的な成魚は、全長 1 ~ 1.5 メートル、重さ 30 ~ 40 キロほど。体重 1 キロあたりの力が最も強い魚とされ、その強烈な引きから釣りの対象魚として人気。イソンボ、タカキン(奄美)トカキン(八重山、奄美)などの呼称がある。インド洋、西太平洋のほか、オーストラリア北岸、紅海、アフリカ東岸まで広く分布。国内では伊豆諸島、小笠原諸島、南西諸島など外洋に面した島嶼周辺に棲息する。
薫平によれば、「流れが複雑でサメが多い難所に住む」「大物ほど深い場所にいる」とのこと。つまり、そもそも人間が素潜りで入れる海にはいないのだ。1 回の遠征期間を 2 カ月もかけるのは、イソマグロが住む海域に出られる天候か否か、その海域にイソマグロがいるか否か、イソマグロの群れに目標サイズがいるか否か、目標サイズのイソマグロが銛の届く深度に来てくれるか否か、という針の穴を通す確率を狙うゆえである。
◆デカい魚がつければそれでいいのか?

薫平の目的は単に「大きい魚を獲る」ことではない。彼はほとんど銛を打たない。遊びで海に入る時は、銛を持たずに魚とにらめっこするだけのことさえある。賞賛や名誉は不要、そこにあるのは「ただ海を知りたい」という純粋な好奇心と、確固たるハンターとしての“美学”だ。未知の海域を自力で開拓し、潮・地形・生態を読み解きながら、海の秘密を一つずつ解き明かしていく。
「マグロを獲るのは僕のエゴ。だからこそ、美しくありたい」と彼は言う。一方的に命を奪うのではなく、自らの命も同等に懸ける「フェアな命のやり取り」。その哲学が、あまりにも原始的な対峙へと彼を駆り立てる。
◆突いたイソマグロはどうしている?

突いたイソマグロは、その土地が育んだものなので、島の人と一緒に食べることにしている。販売したり、剥製にするようなことはない。大きなイソマグロを獲ると、島の方々が包丁を片手に集合し、皆で解体し、皆でシェアする。
薫平「イソマグロを仕留めると、目の前に横たわっている巨大な魚が、まるで自分の命から削り取った一部分のように感じる。だからこそ、獲物は、彼らを育んだ自然の中で生きてきた人たちと共に、その糧にしたい。マグロの切り身が彼らの手を離れ、人伝いに集落の中に行き渡っていくのは、まるでマグロの命が、じんわりと島に帰っていくような不思議な気持ちになる。」